ブログ
2020.02.04
「実務実習」が薬剤師の新卒採用に使える理由。効果的な実務実習にするためのポイントとは?
MCS代表の岡本です。
薬学生が現場で実践を学ぶ「実務実習」。薬学教育の一環であることは前提になりますが、受け入れる薬局側にも、新卒採用の観点でメリットがあるのはご存じでしょうか?
学生を指導するだけの実習期間で完結することなく、「実務実習」をより有用なものにするポイントをご紹介します。これから実務実習の導入をお考えの採用担当者の方も、すでに導入しているが効果が出ていない企業様も参考にしてください。
目次
1. 「補助金目当て」だけの実務実習導入はもったいない
6年制薬学教育制度下の学生は5、6年次に、病院と薬局でそれぞれ11週間、計22週間の実務実習を履修します。「薬剤師として求められる基本的な資質」を身に付ける目的で薬学教育に組み込まれ、実務実習を修了していなければ国家試験も受けられません。
病院や薬局はおよそ2カ月半の期間、カリキュラムに沿って指導にあたるわけですが、学生1人の受け入れに対し40万円ほどの補助金が受け入れ先に支払われます。このことから、補助金目当てで学生の受け入れを積極的に行っている現場も少なくありません。
学生に薬剤師としての資質を身に付けさせることが義務ながら、採用の側面からみると、学生との貴重な“接点”となります。会社説明会や採用面接などは1日単位ですが、実務実習は2か月半もの期間、学生と関わることができるのです。
実務実習の学生を受け入れるには、「認定実務実習指導薬剤師」が常勤していることが条件となりますが、実習の流れはカリキュラム化されていますので、環境さえ整えば実務実習の導入をおすすめしたいところです。補助金を得ることで完結してしまってはもったいないことで、長い目でみると実務実習には補助金以上の価値があると言えますね。
2. 新卒採用における実務実習のメリット
新卒採用の観点で、実務実習は学生に仕事のやりがいや会社の魅力を伝えることができるチャンスと言えます。
薬学生の就職活動中に幾度となく接点は発生しますが、会社説明会では「聞く」、店舗見学会では「見る」ことが中心であるのに対し、実務実習では「体験する」ことができますよね。実務を通して継続的なコミュニケーションをとっていく、これに勝るものはありません。
実務実習の11週間を自社のPR期間として捉えて迎え入れると、学生の満足度が高くなり、結果として自社のファンになってもらえる可能性もあります。例えば、実習中の学生が実習先の薬局に良い印象を抱いたなら、「指導が丁寧、居心地がいい」などと他の学生に話すでしょう。若者の口コミ力はあなどれませんので、将来的にリファラル採用につながる可能性を秘めています。
即時の採用に直結しづらくとも、会社のブランディングとしてやっていく価値は充分にあるでしょう。仮に、薬局に実習にきた薬学生が一般企業や病院へ就職したとしても、結婚出産で再就職や転職を考える時に「実習でお世話になった薬局いいところだったな。相談してみよう」となるかもしれません。短期ではなく、中長期として実務実習の可能性を捉えると、将来的に恩恵がかえってくることがあるでしょう。
3. 採用につながっていないケースの問題点とは?
実務実習の学生の受け入れに手を挙げているのに「実習生がこない」、また、学生を受け入れられているのに「採用につながっていない」とお悩みの採用担当者の方へ2つのケースをご紹介します。
薬剤師会との関係性
突然ですが、薬剤師会との関係はうまくいっていますか?
指導薬剤師の認定取得にも、学生の実習先を決定する調整機構にも、都道府県の“薬剤師会”が関わっています。薬剤師会との関係性が良好でないと、指導薬剤師の認定が取得しづらい、実習生を分配してもらえないというケースが本当に存在しています。
大手企業は薬剤師会に所属せずとも自立していられますが、小規模の会社や薬局ですとおおむね薬剤師会に所属しているでしょう。指導薬剤師の認定が取れない、実習生がこない状況にある場合は、まず、薬剤師会との関係を見直してみてください。関係値を上げて、学生を送り込んでもらう確率を上げましょう。
指導薬剤師の選定ミス
定期的に実習生を受け入れているのに、採用につながっている実感がない場合に考えられる要因は「指導薬剤師の選定」にあるかもしれません。
会社に不満を持つ社員を指導薬剤師に任命してしまうと、学生へ愚痴をこぼしてしまったり。あるいは、余裕がなく責任感が不足している社員の場合、学生の面倒を全く見ない、という事態になることも。学生はそんな職場で将来、働きたいと思うでしょうか?
そこでまず理解しておきたいのが、実務実習に対する学生の基本スタンスです。
すでに薬局などを含めたアルバイトで報酬を得たことがある薬学生からすると、実習は「タダ働き」と捉えられることもあります。また、病院や一般企業志望の学生だと「薬局は自分には関係ない」と後ろ向きな考えでいたりもします。「しょうがなく実習を受けている」という、低いモチベーションが初期設定になっている学生が往々にして存在するでしょう。
ですので、実務実習の機会に採用促進を図ろうとしても、実習生の扱いを誤ると逆効果になる恐れがありますので、実習生の一番近くで教育を担当する指導薬剤師の選定には注意が必要です。
4. 新卒採用につながる実務実習のノウハウ
それではどのような点に留意して実務実習を取り入れていくとよいか、そのポイントをご説明します。
優秀人材を指導薬剤師に抜擢する
指導薬剤師の人物像がキーになると前述でお伝えした通り、採用促進につなげるためには「誰に任せるのか?」選定が肝心です。
まず指導薬剤師の認定要件として、「病院や薬局の薬剤師として5年以上の実務経験(実務経験3年以上から養成研修の受講可)」の必要があると定められています。この要件を満たしている上で、“現場でも評判の良い薬剤師”を指導薬剤師として抜擢するといいでしょう。採用活動で置き換えるなら、リクルーターが務められるような優秀人材が好ましいです。
現場の調剤業務に真摯に向き合っている責任感ある人物であれば、実習中の薬学生を軽視することなく、丁寧に面倒をみてくれるはずです。生き生きと現場で働く薬剤師の背中を見せることが学生のモチベーションアップにもつながります。指導薬剤師の評価は、会社の評価に直結しますので、慎重に選定してください。
また、指導薬剤師を信頼するあまりに任せきりになり、負荷がかかりすぎてしまわぬよう会社側からの配慮も必要です。通常業務と実習生の指導が並行することになりますので、負荷が重くなることで、会社への不満が生まれ、余裕がなくなり学生の面倒をみられなくなる、そのような事態に陥るのは避けたいところです。
学生にスキルアップを実感させる
薬学生にとって、教育課程の一つにすぎない実務実習ですが、これを覆すだけの価値をつくらなければ、採用活動への好影響は得られないでしょう。日々繰り返される調剤業務の中で、やりがいや楽しさをどう演出して学生に体験させていくかが重要です。
大学は座学、実務実習は実践の場でありながらも、例えば、大学や実習カリキュラムでは得られない知識を学ばせる研修などを設けると、学生にスキルアップを実感させることができます。カリキュラムに沿い実習を進めるだけでは、他の受け入れ先となんら変わりないので、「いい演出」をして差別的優位性を実現させていくのが理想的です。
調剤は閉ざされた空間の中で営まれますので、そこでの人間関係の構築もとても重要なものになります。一部では、実習生に対するパワハラなどトラブルが発生しているようですが、未来の薬剤師の芽をつぶさぬよう学生に対しても、ホスピタリティマインドを発揮したいところです。
信頼関係を築き、社会人未満の学生に実習期間を通じて、スキルも内面も成長を感じてもらえるような丁寧な指導ができるといいでしょう。